分子病理・細胞学分野
自己免疫・輸血検査学研究室
研究内容
生物学的製剤投与下でも実施可能な輸血検査の開発
生物学的製剤とは遺伝子組み換えや細胞培養技術によって製造された薬剤であり、特定の分子を標的とする抗体を有効成分とします。特定の分子を狙い撃ちするため一般に高い効果が望めるとされます。
免疫チェックポイント阻害剤も生物学的製剤のひとつです。免疫チェックポイント分子とは細胞が免疫細胞の認識から逃れるために発現する分子であり、ガン細胞もこの分子を高発現することで免疫による排除から逃れています。免疫チェック
ポイント阻害剤はこの分子を抗体でマスクすることで、免疫担当細胞によるガン細胞の排除を促進するものです。外科的切除や化学療法など、これまでの標準治療では十分な治療効果が得られなかった症例でも有効である一方、副作用などの負の側面も当然認められます。
輸血検査において認められる偽陽性も生物学的製剤がもたらす負の側面の一つです。輸血副反応を引き起こす抗体を不規則抗体と呼び、この不規則抗体が患者の血液中に含まれるか否かを赤血球と反応させて調べます。ダラツムマブやマグロリマブといった免疫チェックポイント阻害剤が認識するCD38やCD47は赤血球表面にも存在するため、赤血球が非特異的に凝集してしまい、安全な輸血療法の障害となります。当研究室ではこの非特異的な反応を回避する検査方法の開発に取り組んでいます。
中毒に関わる物質の化学的分析
自然界に存在するものから向精神薬等の薬毒物、生活環境で発生する有毒ガスなど、私たちの身の回りには中毒を起こしうる様々な物質が存在しています。本研究室では血液や尿などの試料を対象とし、高速液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)などの化学分析装置を用いて各種薬毒物や中毒マーカーの分析法の開発を目指します。これら分析法は法医領域での死因究明や救急医療での診断に大きく寄与するものと考えています。
当研究室ではこれまでに、北海道大学大学院医学研究院 法医学教室と共同で患者血液中に中毒物質として含まれるジギトキシンをLC-MSによって同定・定量しました。これにより中毒の原因がジギタリスの誤食であることを確定しました。現在、国内でジギトキシンを測定できる臨床検査試薬は販売されておらず、質量分析という手法だからこそ得られた結果です。